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大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)5294号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕<証拠>及び弁論の全趣旨を綜合すれば、

原告主張のとおり被告角野を雇用し、この雇入れに当つては同被告の義理の叔父(母の妹の夫)である被告咲村が紹介し(この点当事者間に争いがない)、原告に対しよろしく頼むと申入れて雇用されることがきまつたものであり、当時原告方は陸運局による陸上運送業免許下附の直後であつたのでその監査に備える必要などから、雇入れの一、二ケ月後に「誓約書」という標題で、

「私儀今般貴社に採用されるに当り、左の条項を堅く誓約致します。

(中略)

六、故意又は重大なる過失により会社に損害を与えたる時は、直ちにその損害を賠償致します。

(以下略)

右保証人と連署の上誓約致します」

との不動文字の印刷してある書面に被告角野の記名押印を得、被告咲村の了承を得て、以上の文言及び記名押印欄に続き同一紙面上で

「前記誓約事項を承諾の上保証致します」

との不動文字の印刷してある部分のあとへ「保証人」との印刷してある下へ被告咲村の署名押印を得たものであること、但し右誓約書は保管中昭和四二年七月頃金品と共に盗難にあつて紛失したこと、

被告角野は原告の主張するとおりの業務上の交通事故を惹起し、右の事故は同被告の飲酒の上のじぐざぐ運転によるものであつたこと(この点については被告角野においては争いがない)、

以上の事実が認められ、<証拠判断略>。

被告らの「負担の特約」があつたとの主張を認めるに足る証拠もない。

右の各事実によれば、被告咲村は遅くも前掲誓約書に保証人として署名押印した段階において所謂身元保証をしたものと認められ、被告角野の惹起した本件交通事故は同被告の重大なる過失によるものというべきであるから、以上によれば被告角野は民法第七一五条第三項、第七〇九条により原告が使用主(運行供用者)たる地位に基づき支払つた損害額及び原告に与えた損害につき賠償すべき義務を負い、また被告咲村は身元保証契約によりこれにつき保証人として賠償の義務を負うものといわなければならない。蓋し自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)の立法趣旨、同条第三条により運行供用者責任について立証責任を転換している精神などに照せば自動車事故に基づき運行供用者たる使用主が被用者に求償をなし得るのは同人の故意または重大な過失が存する場合に限るものとすることにも合理的な十分の理由があり(本件においては当事者間の特約によりこの点を確認している)、従つてこれらの場合に限定して求償を許すものと解すべきものとの前提に立つて考えるとしても、本件にあつては重過失の存すること前認定のとおりであるので、結局被告らは賠償義務を負うべきことが明らかだからである。

そこで損害について考えるのに、<証拠>を綜合すれば、

右の事故により原告の主張するとおりの内容の死傷及び車両、積載物の破損を生じ、これらによる損害額として、原告の主張するとおりの内容により少くとも

訴外岩井関係 四、三三五、五五〇円

同 青木関係 二万円

同 後藤関係 七〇四、三六〇円

同 京野関係 九万円

を生じたこと、

原告が訴外京野から受取る約束となつていた運送賃四万円は事故のため債務不履行となりこれを受取ることができなくなつたこと、

前掲各訴外人の各損害については、原告が使用主(運行供用者)たる地位に基きそれぞれ全額(但し岩井関係分のうち(一)の死亡損害三八〇万円については、一五〇万円は自賠責保険金により支払われ、またその残額中二五万円は、昭和四六年五月二六日一五万円、六月一〇日一〇万円を支払うこととなつており、支払未了であり、後藤関係についても分割支払が若干遅延し最終支払は昭和四六年三月となつたが、全額支払完了した)を支払つたこと、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

なお原告は以上の他事故の後始末のため要した費用がその主張のとおりの額生じた旨主張し、前掲証拠によればそのとおり支出したことは認められ、且右支出が本件事故なかりせば支出することのなかつたものとの一面を有することも明らかであるが、右費目の内容を具さに検討するときは、これらは原告が使用主(運行供用者)たる地位にあることにより、自己の法律上の責任を適正にまた自己に有利に解決するために投じた費用とみることが妥当であつて、これによればむしろ原告が自己のために支出したものと見るべく、且このような費用はいやしくも運送業を営む者は当然に自己負担により処理すべき危険の範囲内のものとして予測し、またそのように運営し、且運営すべきものと解することが妥当であつて、被用者にその負担を転嫁すべき損害とは到底認め難く、よつて右主張は採用しない。

ところで使用主(運行供用者)は被用者に対し、右の損害額について当然にその全額を求償し得るものではなく、その範囲は双方の過失(使用主の監督方法、内容、程度を含む)、使用主の義務内容、被用者の労働条件その他の待遇内容を綜合し、双互の負担割合を妥当な範囲内に制限することが相当であるものと解すべきところ、前掲各証拠によれば、被告角野は給与も比較的低額で、しかも事故後服役までの一年余を含め前後約三年間勤務していること、原告方の平常の監督方法はかなり杜撰な面もみられたと窺われること、などの事実が認められ(この認定を左右するに足る証拠はない)、これらの事実と前記原告の事業内容その他前掲各事実及び証拠により認められる諸般の事情を総合すれば、原告が被告角野に対し請求(求償)することが許されるのは、前記損害合計額の概ね七割に相当する金二五八万円とすることが相当である。

そして前掲各事実(殊に原告の監督上の過失、被告角野の在職期間、原告の業務内容、保証が監査に備え形式的な面をかなり帯有したこと)及び原告が所謂任意保険などによる危険の分散をはかるなどの方途を講ずることを怠り、また前記誓約書(保証書)を紛失するなどの失態を犯していることなど諸般の事情に照らせば、身元保証人たる被告咲村はこのうちほぼ三割に相当する金七八万円について賠償の義務を負うものとすることが相当である。 (寺本嘉弘)

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